清掃員と経営者
「連絡をしてくれて助かりました。まずはお会いして頂きたい方がいます。」
「あ…はい。それより先日はお恥ずかしい醜態を晒しまして、ご迷惑をお掛けしました…。」
深々と頭を下げると、渡瀬は眼鏡を掛け直しながら微笑んだ。
「いえ。私も良いものを見せて頂いたので…。」
そう言うと18階に到着し会議室へ案内される。
使用前なのか清掃員が2名掃除をしていた。
「座って下さい。」
渡瀬は特に気にする様子も無く促す。言われるまま座り瑠美は姿勢を正した。
机の下から大きな紙袋を出し、作業着の様なものを手渡される。
「村上 瑠美さん。今日から3ヶ月は研修期間になります。仕事は少しずつ覚えて頂くとして、まずはこちらに契約のサインを。」
促されるまま書類に軽く目を通す。研修を無事に終了すると社員契約が締結されると記載がある。
「この後は早速着替えて頂きます。これが制服、作業着ですが。明日から出社後に更衣室で着替えてから指示を仰いで下さい。」
見るとその作業着は会議室に居る清掃員と同じ物で、瑠美は目を見開き動揺してしまった。
「あの…清掃の仕事をする、と言うことですか?」
「それだけではありませんが、一先ずは各フロアの清掃が主な仕事になります。他に質問はありますか?」
「いえ…。」
デスクワークだと思っていたが考えが甘かった。そう悟った時には契約書にサインをした後だった。
そもそも飲み屋で出会った男性がタイミング良く拾ってくれて希望の仕事まで用意してくれる筈も無い。
ボランティアならまだしも、自分のデスク周りや家などは掃除した事もあるが、仕事として清掃員をするのは初めてだ。
現実に戸惑いながら決意する。邪な気持ちで入社を決めてしまったが、やるからにはしっかりやろう。