刀華
 日が昇る前に、鬼一郎は指定された場所に向かった。
 道場からは、かなり離れた山の中の広場だ。
 周りを木々に囲まれ、清々しい空気が満ちている。

 鬼一郎は軽く刀を振って身体を温めると、空を見上げた。
 朝日が昇ってくる。

 その光に、いつの間に現れたのか、師匠の姿が浮かび上がった。
 切り株に、静かに坐している。

 鬼一郎は、師匠の腰に目を当てた。

---今日から、あの刀はわしのものだ---

 妖しいまでに輝く銀色の刀身を脳裏に描き、鬼一郎は知らず悦に浸った。

 そんな鬼一郎の目に、小さな影が認められた。
 朝日の差すほうに、小柄な彦四郎が姿を現す。

 鬼一郎は、素早く襷をかけた。

「遅かったのぅ。臆したかと思ったぞ」

 ははは、と笑う。
 彦四郎は広場に入ると、三間の間を取って鬼一郎の前に立った。
 能面のような顔に、覇気は感じられない。

「お主が臆するのも無理はない。わしも、弟弟子を斬るのは気が引けるが、これも定めよ。この上は、一撃であの世に送ってやることだけが、兄弟子としての、せめてもの情けじゃ」
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