刀華
「……お優しいことだの」

 表情のないまま言い、彦四郎はゆっくりと刀の下げ緒で襷をかける。

 鬼一郎は、少しぞっとした。
 何の気も発していない無表情が、返って不気味である。

 鬼一郎は抜刀すると、日を背にして切っ先を彦四郎につけた。
 彦四郎が、少し目をすぼめる。
 それに、鬼一郎は自信を取り戻した。

---ふふ。この向きであれば、彦四郎は絶対的に不利じゃ。わしを見ようとしても、朝日が目を射る。そんな基本も考えずに、のこのこ後から来るなど、愚の骨頂よ---

 心が落ち着けば、余裕が生まれる。
 鬼一郎は、どっしりと腰を据え、ぴたりと切っ先を彦四郎の眉間につけた。
 隙のない構えである。

「いざ!」

 言い様、鬼一郎は気合いを発した。
 凄まじい剣気が、彦四郎の肌を刺す。

 彦四郎は腰を落として身構えた。
 だが両手はだらりと下げたままだ。

 体勢的には抜刀体勢のようだが、手を刀にかけていないと、抜刀術は意味がない。
 速さで負けるのだ。
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