小さなキミと



後期終業式を間近に控えたその日、興奮冷めあらぬ様子の田辺が教室に駆け込んで来た。


『見て!』


渡された紙切れには、丸っこい字が並んでいた。



田辺くんへ。

好きです、私と付き合ってください。


紙の端に、小さな字で例の彼女の名前があった。



『すっげーじゃん! よかったなぁ!』


服部は素直に祝福した。


当時はまだ、服部は人の恋路に相応の興味を持ち合わせていたのだった。


それが親友となれば、尚更だった。


服部は、彼女からの手紙のその文章に、何の違和感も感じなかった。


『オレが先に言いたかったな』


言いつつ田辺は、照れくさそうに笑っていた。





それから1週間と待たずに終業式が訪れ、ほぼ同時に田辺と彼女の付き合いも終わった。



それはあまりにも唐突で、あまりにも早すぎる展開だった。


昨夜彼女から、メールで別れたいと告げられた。

それで自分もその申し出に応じた。


田辺が服部に語ったのは、これだけだった。


『何でアッサリ応じるんだよ、ずっと好きだったんじゃなかったのかよ。
理由は、つーかまだ1週間も経ってないのに!』


服部が何を言っても、田辺は詳細を教えようとはしなかった。


『あの子は最初から、オレの事好きじゃなかったんだよ』


そんなはずはない、だって告白をしてきたのは向こうじゃないか。


朝礼のチャイムが鳴ったので、それは言えなかった。





式が終わって解散になったとき、

例の彼女がどこか思いつめた様子で、なぜか服部の席へやって来た。


チラリと田辺を見やると、確かに目が合って、逸らされた。


『……田辺っ』


声は聞こえたはずなのに、田辺はサッサと教室を出て行った。

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