小さなキミと
オレはあの時、剛に本気で殴られると思った。


だって、剛だし。

コイツならやりかねないし。


だから、まさかキスされるとは思ってなかった。


そういうのは恋愛ものの漫画とか、映画とか、とにかくファンタジーの世界の話でオレらには関係ないと思っていた。


だって、剛だし……。


だから、つまり、その後の展開は全く予想外というか、何というか……。







数十分前の話。


「────えっ、
あれ……えっ!?」


突然のキスに戸惑うオレに、剛がコツンとおでこをぶつけてきた。


「金曜日の仕返し」


小さな声でそんなことを言って、剛はオレの隣に腰を下ろす。


「しかえし……?」


それには答えず、剛はオレの顔を両手で包む。


彼女はどことなく真剣な表情で、それでいて真っ赤に染まった顔だった。


剛の手が熱いのか、オレの頬が熱いのか分からない。


だけどとにかく熱い。


オレは……分からないほど子どもじゃない、けど。


涼しげな秋の風が、閉じてあったカーテンたちをフワフワと躍らせていた。


オレの心臓はこれでもかと言うほど盛大に大騒ぎし、それは早鐘を打つ鼓動となって現れていた。


引き寄せられる小さな力に逆らえるはずもなく、また唇が塞がれて────


怖いくらいに柔らかいそれは、角度を変えて何度も落ちてきた。


え、ちょっと、待って何これ、終わらないのか────?


いつの間にか疑問は消え、頭の中が真っ白になった。


気づけば目を閉じていた。

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