黒と白
「杏樹?」


「あ、なに?」


「さっきからボーッとしてどうしたん?
どのホテルにするん?」


「あ。どこでもええよ」


「今日は泊まっていけるんよね?」


一瞬頭の中で彼の残像が浮かんだ。

今日彼はやってくる。
普通のようにオートロックを解除して
手土産なんか持ってきて
スーパーの袋の中は、ニンジン、じゃがいも、玉ねぎ。鶏肉は嫌だから、きっと豚肉。


それにビール。

部屋に入ってわたしがいないのを確認すると、ポマを構いながら1人でビールを飲むだろう。そして酔いつぶれて、わたしの用意したスゥエットを着て、わたしの匂いに包まれながら眠る。

胸がしめつけられる。


電話もメールもしてこない。


彼にとってその場所にわたしがいるという事実はさほど重要ではなく、わたしのベットで眠り朝を迎えることが重要なのだから。



「泊まれるで」


俺の車駐車できん場所多いねんな、なんて涼くんは独り言を言いながらハンドルを切った。


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