マネー・ドール -人生の午後-
 神谷の調査など、正直なところ、たいした問題ではなく、俺はもっとシビアな現実に直面していた。

 冷静に考えれば、昨日の出来事は、立派な『事件』だ。
警察に訴えられれば、間違いなく、真純は逮捕される。それに……マスコミにでもリークされたら……
 忘れがちだけど、俺の親父は、大物代議士。
義理の娘が、こんな事件を起こしたと世に知れることになれば、それこそ、真純が傷つくことになる。

 とにかく、真純を守らないといけない。
 中村だって、聡子さんだって、杉本だって……もしかしたら……金ってものは、人を変えてしまう。俺は金のプロ。金の恐怖は、よくわかっている。

「寄りたいところがあるんだよ」
「どこですか」
「友達の会社」
「営業ですか?」
「まあ、そんなとこだ」
 
 途中で手土産の和菓子を買って、銀行で用意した二百万を白い封筒に入れた。
 封筒と小切手は常備している。いつ何時、いるかわからないからなあ。

「車、乗って帰ってくれ」
「所長はどうやって帰るんですか」
「真純の車をあずけてあるんだ。会社に置いといてくれたらいいよ」
「ご自宅に届けます」
「任せるわ。俺、今日はこれで帰るから」
「わかりました。お疲れさまでした」
「お疲れ」

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