マネー・ドール -人生の午後-
 真純をホテルに送り、俺は家へ戻った。家の電話には留守電とFAXが満タンで、確認せずに、全部、消去した。

 どうすればいいんだろう。……杉本……俺は、どうすればいい? 真純のことをどうすればいい? お前なら、どうする? お前なら……一人には、できないよな……

 一人きりのベッドで、俺はこれからのことをずっと考えている。時間が、過ぎているのか、過ぎていないのか、わからないくらい、ずっと考えていた。
 携帯の音に我に返り、時計を見ると、夜中の一時を過ぎていた。
「慶太?」
「どうした?」
 電話の向こうの真純は、泣いている。
「……寂しいの……」
消えてしまいそうな声で、真純は……
「慶太……一人は、寂しいの……」
 抱きしめたい。今すぐ、真純の所に行って、抱きしめてやりたい。震えている。寒いって、震えて、寂しいって、泣いて、俺を、真純は待っている。
「会いたいの……」
俺だって、俺だって会いたいよ! お前に、今すぐ……
「大丈夫だから。真純、何も心配しなくていい」
「私もお家に帰る」
「ダメだ」
「どうして? どうしてダメなの?」
「こっちにはまだ……マスコミがいるから」
「一人にしないで……」
「一人じゃないよ。ちゃんと俺はここにいるから」
「慶太……」
「じゃあ、切るぞ。早く寝るんだ」

 俺は、震える指で、通話終了、を押した。すぐに真純からまたかかってきて、でも、俺はもう取らなかった。
 やっぱり、俺は真純を一人にはできない。
 真純を……誰かに託そう。真純を大切に思ってくれている、誰かに。真純のことを理解してくれる、誰かに。

 真純が、信頼できて、安心できる……あいつ……あいつしか、いない。
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