マネー・ドール -人生の午後-
「これからどうしよっか。ハローワークにでも行く?」
 冗談半分で言ったけど、慶太は、少し、考えて……
「あのさ……」
「なに?」
「やっぱ、恥ずかしいからいい」
「もう、気になるじゃん。言ってよ」
「笑わない?」
「うん。笑わない」
 慶太は、私の手をぎゅっと握って、ちょっと恥ずかしそうに、耳元で言った。

「……えっ? ほんとに?」
「じいさんとばあさんになってもね、できるかなって……やっぱ、ガキかな、俺」
「ううん、そんなことない! そうね、それなら、二人でずっと一緒にいられるね」


 松永さんの四十九日を済ませて、私たちは、お墓をたてて、やっと松永さんに、ゆっくりしてもらうことができた。
 
 それから、慶太は事務所を廃業して、権利は全部、山内くんに渡して、藤木くんも相田くんも、そのまま山内くんと一緒に仕事してる。
 山内会計事務所は、サクラコンサルタントオフィスよりも評判が良くて、あっという間に従業員も増えて、慶太ったら、ちょっと悔しそう。うーん、そうね。やっぱり、会計って、ほら、見た目、もあるから……

 そして、私たちは、都心のタワーマンションも、ベンツとBMWも処分して、少しだけ、老後のお金を確保して、後は全部、新しい生活のために。
 
 私たちの、新しい、人生のために。
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