マネー・ドール -人生の午後-
 慶太が出ていくと、その人は、がらりと表情を変えた。
 その顔。その目。
やっぱりね、昔と変わってないわ。私を殴っていた頃のあなたと。
ゴミ。ゴミのようなオンナ。
「将吾と一緒になるんかおもようったけど。あんな金持ちの男つかまえて……あんたも私の娘じゃのお」
 目の前のその人は、ふふんと、せせら笑った。
「あなたの娘だってこと、隠してたから、あの人と一緒になれたのよ」
 私も笑ってやった。ふふんと、蔑む目で、笑ってやった。
「聞きたいことがあるの」
「なんじゃ?」
「私の父親のことよ」
「なんじゃ、今更」
「はっきり聞くわ。将吾と私は、兄妹なの?」
「誰がそんげなこと」
「将吾から聞いたの」
「昔のことじゃて」
「あなたには昔のことでも、私には大切なことよ。答えて」
「……可能性は、ないことはない」
「はあ?」
「あんたとちごうてな、私は男にもてたんじゃけ」
「……誰が父親か、わからないってこと?」
「そうゆうたじゃろ、昔」
「それでよく、将吾と一緒になるとか、そんなこと言えたわね」
「いつまでカマトトぶっとるんじゃ」
「ふざけないで!」
「真純、あんたは私の娘じゃ。そん体も、顔も、色気も、私譲り。男には苦労せんかったじゃろ? あんな金持ちの男捕まえて、親に感謝せんね」
 ニヤニヤと笑って、私の胸を乱暴に弄った。
最低……やっぱり、最低!
「来るんじゃなかったわ」
「誰も来て欲しいなんぞ、ゆうとらんで」
「あんたなんか、親でもなんでもない!」
「かまわせんよ、ここの病院代さえなんとかしてくれたら。あんたのダンナ、ええ財布じゃのお。ああ、また時々、家賃頼むけえ」

 最低。
その単語しか、思い浮かばない。
なんなの……あんなオンナの血が私に流れているっていうの?
あんな、最低なオンナの血が……

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