マネー・ドール -人生の午後-
「ありがとう、杉本」
「そんな、礼なんかいらん」
「送るよ」
「遠なるやろ」
「それくらい、させてくれよ」
俺は伝票と一万円札を店員に渡した。
「割り勘やろ」
「いいって。会社の経費にするから」
「そうか。じゃあ、今日はご馳走になるわ」

 杉本の家は郊外の都営住宅で、子供がもう少し大きくなったら引っ越すつもりだと言った。
「ああ、そうだ、忘れてた。これ、土産。子供達にさ」
「USJ? 大阪行ったんか?」
「初めてなんだ。真純と、観光旅行したの」
「そうか。喜ぶわ。ありがとう」
「それと、なんか買ってやりなよ」
 土産と一緒に、俺は、三万円を渡した。
「ええって」
「いいじゃん、前にキャンプした時さ、なんか子供ができたみたいで楽しかったんだよ。な、子供達に、だからさ」
 それは別に嫌味でもなく、本心で、俺はなんだか、杉本の子供達をすごく身近に感じていて、何かしてあげたいって、それだけだった。
「そうか。じゃあ、ありがたくもうとくで」
 そういって、杉本は渋々、それを土産の袋に入れてくれた。
 ああ、そうだ。あの朝も、こうだったな。でも、あの時は、完全に『嫌味』だったけど、今はほんとに、違うんだぜ、杉本。
「今度、飯でも食いに来てくれや」
「ああ、ぜひ。聡子さんによろしくね」
 杉本は昔みたいに軽く手を上げて、マンションに入って行った。
家に帰ったら、聡子さんと子供達が出迎えてくれるんだろうな。

 もし、子供がいたら、俺達はどうなってたんだろう。もっと、違った生活をしてたのかな……
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