狂愛

せっかく用意したお風呂にゆっくりと入って疲れを癒したいと思っていたら、彼が「今日はお仕置きが必要だな。」と言い、私の手を引いてお風呂場まで連れてこられ私は一気に青ざめる。

さっき私は不本意ながらも彼に「ごめんなさい。」と謝ったばかりのはずだ。

「嫌だ!離してよ!絶対に嫌!」
どんなに必死にお願いしても、彼が私の願いを聞き入れてくれた事はない。
それでもできる限りの私の意思を訴えなければもっと酷い事をされそうだ。

「舞香、俺に逆らうのか。」
地を這うような低い声にビクリと私の抵抗が弱まる。
「そろそろ剃ってやるって言ってるんだ。自分でやって傷がつくと大変だからな。」

凶悪な笑みを貼り付けたまま、彼は大人しくなった私の服を脱がせると先に私を風呂場に押し込んだ。
その後彼はタオルと剃刀とクリームを手に服を着たまま風呂場に入ってくる。

「ほら、さっさと足開け。」

私は今にも零れそうな涙を必死に耐えて足を開く。
ここで泣いたり、抵抗したら彼はもっと酷い事をすると長年の経験上理解している。
そして、私の大切な部分に何のためらいもなく手をそえて包んでいた毛を剃り落としていく彼。

処理が終わってツルツルになると彼は満足そうにニヤリと笑う。
私の何がそんなに気にくわないのか言ってくれればいいのに。

「また毛が元通り生えるまではジョリジョリして痛いだろうな。」
お風呂場の毛を自分で片付けていた私に彼はとても愉快そうに言い放ち、片付け終わって今度こそお風呂に入ろうとすると今度は裸の彼が入ってきた。

今日は本当に酷い。
いったいいつまで続くのだろうか。

お湯の中で彼は私を足の間に座らせ私のお腹の肉を掴み始めた。
「掴まないで!」と言っても彼はニヤニヤしながらやめない。
「ぶにょぶにょだな。20代でこの腹は泣けるな。」

何度も彼から言われたことのある言葉だが、何度言われてもガーンと胸に突き刺さる。
というか、体育座りなんだからお肉が寄るのは仕方ないことだと思う。

だが、何故か同じ生活をしているはずの彼は相変わらずにスラリとした体型をしていて、程よく引き締まった体は文句の言い様がないほど美しい。
何も言い返せないでいると、彼は私を抱き寄せ首筋に顔を埋めてきた。
いきなりのことに戸惑うと、肌を強く吸われるのを感じて体が反応する。

「…え、うそ……待ってッ」

首筋を舐められながら両胸を遠慮なく揉まれた。
さっきまで私のお腹について嫌味を言っていたその唇でよく私の体にキスができたものだ。
本当に何様のつもりだ。



「…う、うっ。」
とうとう私の瞳から涙が零れ始めるまで執拗に触られた体を震わせていると、やっと彼が私から手を放す。
そして、私の腰を抱いて湯船から立ち上がると適当に体を拭いて彼の寝室へ連れていかれた。

彼はいつも意地悪を言うくせに、こういう時は静かだ。
私の長い髪は濡れたままベッドに押し倒される。

「秀くん……」

私は昔から彼を"シュウくん"と呼んでいてそれは、小学生の頃から変わらない。
彼は私の頬を撫でながら唇を重ねてきた。
それは驚くほど優しいもので、いつもキスをされる時は本当に今私の前にいるのが彼本人なのか不安になる。

彼の首に腕を回して抱きしめる。
私はいったい彼の何なんだろう。
彼が私の体に触れる度に疑問がわく。

きっと私は彼のことが好きなのだとは思う。
彼のしてくることは酷いから嫌だし、苦手だけど昔から彼以外の人間が私に意地悪をすると彼お得意の"王子様スマイル"で正論を言い、その人達を黙らせていた。

だから、何だかんだ言いつつも私は彼の優しさも知っている。
(ただ底意地が悪過ぎるのはどうにかならないのかと未だに思う。)

私に意地悪をする人達は勘違いしているのだ。"あの女はどうして神田くんの特別なのか分からない"と言うが、『特別』の意味が彼女達は分かっていない。
彼女達が私に嫉妬しているのはお門違いだ。彼女達がしている事とさほど変わりないことを私が彼にされている事を知らないから彼女達は私に嫉妬する。
出来ることなら変わってもらいたいくらいだという私の態度も彼女達を逆なでしてしまっていたのも悪いとは思ったが、正直変わってもらいたかったから仕方ない。



彼は大学を卒業するまで私には指1本触れようとする事はなかった。
だから、私は彼にとっていじめる対象としてしか認識されていないと思っていた。
いくら彼女達が嫉妬しても、私には逆恨みとしか思えなかったし、彼が彼女達を黙らせるのも玩具が取られるのが嫌なのだろうくらいにしか思えなかった。

それが、いきなり一緒に住むことになり私の乙女心がどれだけパニックになったか彼には分からないだろう。
引っ越しした当日に私のファーストキスはあっさり奪われて、処女さえもあっさり奪われてしまったのだ。

一体彼が何を考えているのか分からずに、初めての痛みを体中に感じながら「どうしてこんなことするの?」と泣きながら何度も聞いた。

『舞香は俺のものだからだ。舞香を傷付けていいのは俺だけだ。』

なんて自分勝手な男なんだと涙ながらに睨みつけた。
彼に触られても全然嫌じゃない自分がもっと嫌だった。
どうしてこんな男に好意を持っているのか自分の気持ちが分からずに涙が零れた。



それから5年もこんな気持ちを持て余してどんどん収集がつかなくなってきている。
怖い。
彼から離れられないと分かっている。
だから、彼が私を傷付けたいと思っているなら彼は最後に私を放り出すのではないか。
そんな不安が私の心の中で渦巻く。





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