琥珀の記憶 雨の痛み
角を曲がったら、もう家だ。
早く、早くこの時間を終わりにしないとと思っているのに、足は動いてくれない。

尚吾くんはその場で、片手で支えていた原付のスタンドを下ろした。
彼の両手が自由になった代わりに、私たちの歩みは、そこで止まったままになった。


「莉緒」


名前を呼ばれて、首を横に振った。
質問されたわけでも、何か言われたわけでもないのに。

警鐘が鳴ってる。
これ以上は駄目だと。

けれどその場を動こうとしない足が、認めたくない自分の本音を証明している。

そんな自分に嫌気が差して、せめてもの抵抗で耳を塞ごうとした私の両手を、尚吾くんの手が捉えた。
今度はさっきと違って、そっと、優しく。


「大丈夫――。もう、莉緒が苦しむことは言わないから」

言い聞かせるようにして、彼はいつからか震えていた私の手の甲をとん、とんと指先で軽く叩いた。


だけど。
いくら決定的な言葉がなくたって、こんなの……。


「その代わり、答えて」

小さな声で囁かれた、質問なんて、もう。


「このまま抱きしめたい。……そう思ってるの、俺だけ?」


もう。
はっきり言っちゃったのと、同じことじゃんか。
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