琥珀の記憶 雨の痛み
「しょう――……ッ」

「ちゃんと呼んで。誰もいないから、今」


彼の名前を途中で飲み込んだ私に、訴える。
それはすごく、真剣な目で。
何が起きてるのか、怖くて考えられなかった。


「ホントに困ってないなら、ちゃんと隣歩いて。逃げないで。もっと近くに、ちゃんと並んでよ」


何も言えなくて……動けなくて、目すら逸らせなくて。

掴まれた手首だけが、やけに熱くて。
汗、かいてたらやだな、とか考えてる。

これ以上近付いたらいけない、距離なのに。


「だめ……」

絞り出した声は弱くて、必死で意思を振り絞って横に振った首には、何の説得力もなかった。

頬が濡れた。
雨は、降っていないのに。
伝った雫は、熱かった。


ハッとしたように、彼は手を離した。
掴まれていたところをそっと擦る。
彼がそこに残した熱を確かめるみたいに。


「ごめん」

そう言いながら、尚吾くんはその手で包むように、私の目尻から頬にかけてを拭ってくれた。

「困らせたくないんだ。苦しめたいわけじゃないんだ、ホントに」

目を閉じたまま聞く彼の声は、すごく近くに響いて揺さぶった。

私の方が『ごめん』なのに。
今、私の方がきっと……彼を苦しめてる、のに。
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