琥珀の記憶 雨の痛み
長すぎて折り返した袖口が恥ずかしくて、一回伸ばす。
けど指先まで隠れる長さは余計に恥ずかしくて、また元通りに折り返した。
「もう要らねえもんだから、そのまま処分しとけ」
「えっ? でも」
処分……なんて。
今まで取っておいたことには、意味があるんじゃ。
思い出の品だし。
――彼の中でバスケをしていた過去が、どういう位置づけなのかは分からないけど。
私が捨てるなんて出来ないよ。
そう言いかけて、結局やめた。
本当は要るんでしょ、と言ったところで、彼が素直に認めるとは思えなかったから。
濡れたまま乗ったせいか、ガラスが曇っていた。
曇り止めのためにエアコンを効かせたのだろうけど、濡れた足元から出てくる冷気は少し寒い。
エアコンは煙草の匂いと混じって、ちょっとだけカビ臭さもあった。
きっと彼が濡れたまま乗ることが多いからだ。
「ユウくんの車なの?」
と、話を変える。
「ああ……兄貴の、だった」
「だった? あ、もらったんだ。へえ、お兄さんがいるんだユウくん」
会話を繋げようとしたのだけど、それには返事が来なかった。
「免許持ってるなんて、驚いた」
会話は諦めて独り言のつもりだった。
けど、
「社員になるのに必要資格だから取ったんだよ。仕事ではほぼ100パー使わねえらしいけど」
と、こっちには返事が来るのだ。
ユウくんが掴めなくて、参る。
所在なく車のパネルを見た。
オーディオはラジオしか付いてないらしくて、それもオフになっている車内は会話が途切れると静かで。
エアコンの唸りと、ワイパーの音だけが響いていた。
けど指先まで隠れる長さは余計に恥ずかしくて、また元通りに折り返した。
「もう要らねえもんだから、そのまま処分しとけ」
「えっ? でも」
処分……なんて。
今まで取っておいたことには、意味があるんじゃ。
思い出の品だし。
――彼の中でバスケをしていた過去が、どういう位置づけなのかは分からないけど。
私が捨てるなんて出来ないよ。
そう言いかけて、結局やめた。
本当は要るんでしょ、と言ったところで、彼が素直に認めるとは思えなかったから。
濡れたまま乗ったせいか、ガラスが曇っていた。
曇り止めのためにエアコンを効かせたのだろうけど、濡れた足元から出てくる冷気は少し寒い。
エアコンは煙草の匂いと混じって、ちょっとだけカビ臭さもあった。
きっと彼が濡れたまま乗ることが多いからだ。
「ユウくんの車なの?」
と、話を変える。
「ああ……兄貴の、だった」
「だった? あ、もらったんだ。へえ、お兄さんがいるんだユウくん」
会話を繋げようとしたのだけど、それには返事が来なかった。
「免許持ってるなんて、驚いた」
会話は諦めて独り言のつもりだった。
けど、
「社員になるのに必要資格だから取ったんだよ。仕事ではほぼ100パー使わねえらしいけど」
と、こっちには返事が来るのだ。
ユウくんが掴めなくて、参る。
所在なく車のパネルを見た。
オーディオはラジオしか付いてないらしくて、それもオフになっている車内は会話が途切れると静かで。
エアコンの唸りと、ワイパーの音だけが響いていた。