琥珀の記憶 雨の痛み
誰が誰を裏切って、誰の人生を壊したのだろう――。


恋はふわふわと甘くて優しいものだと、どこかで憧れていた。

憧れて……尚吾くんに恋をして。
ナツのことがあって悩んだり落ち込んだり、回り道したけど――今も、綺麗に片付いたわけじゃないけど。

でも、やっぱりそれは甘くて優しい、幸せな感情だったと。
私は知ったばかりの、はずなのに。


誰かが恋をして。
誰かの恋が叶って。

その裏では別の誰かの、人生が壊れてる――。


「……な、馬鹿な。大袈裟だよ」

わざと口に出して呟いて、考えを振り払った。
声は浴室に、微かに反響して消えた。


母が、父が、相手の女性が、誰がどうだったのかは分からないけれど、確かに悩んだり傷ついたりもしたのだろう。

でも今、少なくとも母は、どん底の不幸にいるわけじゃない。
離婚で、人生多少は狂ったかもしれない。
でも壊れてなどいない。
私が知っている母は、壊れてなどいない。


そうだ、きっと誰の人生も壊れてなどいない。
父は転職を強いられたのかもしれないけど、きっと新しいところでも上手くやってる。
別の女性と築いた新しい家庭で、子どももいて、きっと幸せに。


言い聞かせた。
無理矢理に、自分を納得させようとしていた。

高校生の自分の恋愛と、結婚が絡む大人の恋愛を、並べていっしょくたに考えたって意味がないと分かっているのに。

誰かの不幸の裏に誰かの幸せがあると、思いたくなくて。


ああそうだ、私は狡い。
考えてるのは、母のことでも父のことでもなくて、自分の都合ばかりだった。
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