琥珀の記憶 雨の痛み
私は箸を止めずに黙々と食事を続けながら、母の話にたまに相槌を入れていた。
けどその言葉にすぐには反応出来ず、止まった手からは箸が1本だけ転げ落ちた。


母の携帯の番号は、私がキッズケータイを持たされた頃からずっと変わってはいないはずだけど。
だから、父が母の番号を知っているのは、特別おかしいことでもないのだけど。


――もしかしてずっと、連絡、取りあってたの?


最初に浮かんだ疑問はそれだった。

何も言葉を発せないまま、落ちた箸を拾い上げて。
ちょっと箸先を見て、首を傾げる。

汚れてないし、まあいっか。
何だかどうでも良くなってしまって、そのまま落とした箸で食事を続けようとした。


「こら、やめなさい」

苦笑した母がぴしゃりとそれを止めて、箸立てから別の箸を取って差し出して来た。

母は私の表情から、疑問を読み取ったのだろう。

「あの人に子どもが出来たって聞いて以来よ、電話なんかかかってくるの」

と、すぐにそれを打ち消してくれた。

「そうなんだ……なんでまた、今さら」

新しい箸を受け取って、気を取り直す。


とは言えご飯も残り少しだった。
衝撃の事実でも出てきたら喉を通らなくなってしまうかも、と、母が続きを喋る前に慌てて残りをかきこむ。

それを待つかのように無言のまま向かいから手を伸ばして来た母が、空いた食器を次々重ねてキッチンカウンターに戻していく。
箸を置くのとほぼ同時にテーブルの上はきれいさっぱり片付いていた。
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