黒太子エドワード~一途な想い

不器用な告白

「本当にありがとう、エドワード」
 黒いドレスは着たままであったが、ベールを外したジョアンはそう言うと、近くにあったソファに座った。
 やつれてはいるものの、「キリスト教世界一の美女」と言われたその美貌はまだ健在で、年より少し若く見えて、もっと若い頃には無かった色香も漂っていた。
「そういえば、子供達はどうしている?」
「あなたのお母様が手配して下さった乳母と一緒に寝室で休んでいるはずよ」
「そうか……」
 そう言うと、黒太子は安堵のため息をついた。
「で、どうする?」
 すぐジョアンの方を見て黒太子がそう尋ねると、ソファで一息ついていたジョアンは、目を丸くした。
「どうするって、何のこと?」
「子供達のことだよ。一番上は、確か10歳だったか? ケント伯を継承するにしても、まだ後見人が必要だな。又、君の一族を名乗る連中にやらせるのか?」
「冗談じゃないわ! それだけは、嫌よ! 大体、父上や母上が亡くなられた時だって何もせずに放ったらかしにしておいて、こういう時だけでしゃばってきて、かなり遠縁のくせに、偉そうに指図しようなんて、身勝手なのよ! そう思わなくて?」
 以前、ソールズベリー伯邸で軟禁されたことを思い出したのか、少し興奮しながらジョアンがそう言うと、黒太子はゆっくり彼女に近付き、目の前に立った。
「思うよ。だから、出来れば、王宮で預かりたいとも思っている」
「王宮で?」
 これには、ジョアンも目を丸くした。
「そりゃあ、王妃様には、実の母のようによくして頂いているわ。でも、血縁関係にもないのに、そこまでして頂くというのは、どうかしら?」
「何を言ってるんだ? 君だって、王宮で一緒に育っただろう? 王宮で私達と一緒の暮らしは、少しも楽しくなかったというのか?」
「そんなことは……」
 そう言うと、ジョアンは床に視線を落とした。
「そりゃ、楽しかったし、弟の面倒まで見て頂いて、本当に助かったわ。お蔭で、必要な教養だって身に着けられたんだし……」
「トマス・ホランドとも出会えたしな」
 その黒太子の言葉に、ジョアンは苦笑した。
「エドワード、今、それを言う?」
「……すまない。だが、これだけは分かって欲しい。私の気持ちは、あの頃と変わっていないのだ」
「あの時?」
 何のことか分からず、首をかしげるジョアンに、黒太子はため息をついた。
「だから、私が初めて君に告白した時だよ!」
「告白……。それって、まさか、私が結婚したって言った時のことかしら?」
「そうだよ!」
「あれが、告白……? 確か『王太子になるのを待って欲しかった』って言っただけよね?」
「充分だろう?」
 すると、ジョアンはため息をついた。
「もう、エドワードったら、そんなだから、まだ独身なのよ! もっとロマンティックな言葉の1つも言わないと、女はなびかないわよ!」
「ロマンティックな言葉……」
 呆然とその言葉を繰り返す黒太子に、ジョアンは苦笑した。
「まだ、あなたには無理かしらね」
 その言葉に、黒太子はいきなり彼女の前にひざまずいた。
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