黒太子エドワード~一途な想い

浮かれるフィリッパ

「うむ。それがよい」
 エドワード3世はそう言うと、頷いた。
「まぁ、では、1年も待たないといけませんの?」
 フィリッパが明らかに落胆した様子でそう尋ねると、黒太子エドワードは首を横に振った。
「きっちり1年待たずとも、年が明けた段階でよいでしょう」
「貴族や議会には、何と申し開きをするつもりだ?」
 そう尋ねたのは、エドワード3世であった。
「何とでも……。私の妻は、世界中を探し回っても、ジョアン以外にはおりません。それを言うしかないでしょうな」
「そうね。それしかないわね」
 そう言ったのは、フィリッパだった。
「ふん、それで説得出来る程、奴らは甘くないと思うがな……」
「それでも……それでも、やるしかないでしょう」
 父、エドワード3世の目を真っ直ぐ見ながら黒太子がそう言うと、父も諦めたのか、ため息をついた。
「ふぅ、気持ちは変わらんか……。仕方無いか……」
「父上! では……」
 黒太子が目を輝かせると、エドワード3世は呆れ顔で言った。
「自分で、ちゃんと、何とかしろよ!」
「はい!」
 黒太子が嬉しそうないそう言うと、エドワード3世は立ち上がり、部屋から出ようとした。
「あら、あなた、どこに行かれますの?」
「ジャン2世の所だ。さっきも取引をすると申したであろう!」
「ああ、そうでしたわね! では、行ってらっしゃいませ。私は、此処で私にしか出来ないことをしておきますわ」
 フィリッパが満足げに微笑みながらそう言うと、エドワード3世はため息をついた。
「好きにしなさい」
 そう言うと、エドワード3世はその場を後にした。
「じゃあ、陛下のお許しも出たことだし、まずはトマス君達にも知らせて、これからどこでどんな教育を受けるか、相談しましょう。それが終わったら、ジョアンのウエディングドレスの仕立てよ!」
「ウエディングドレスですか? この年で、そういうものを着るのは、ちょっと……。長男のトマスも10歳になりますし……」
「ダメよ! これだけは、譲れないわ!」
 珍しく怖い表情でそう言うフィリッパに、ジョアンは目を丸くした。
「そ、そうなのですか……?」
「そうよ! だって、エドワードは初婚なんですもの! しっかり着飾ったところを見たいのよ!」
「それはそうでしょうが、一張羅なら、舞踏会等でもお召しになっておられるのでは……」
 すると、フィリッパは怖い顔のままで首を横に振った。
「そういう時のとは、違うでしょ! ジョアン、あなたも母親なんだから、分からない? トマス君の結婚式、見たいと思わないの?」
「それは……」
 具体的に息子の名を挙げられると、流石にジョアンも困った表情になった。
「見せてくれるわよね、ジョアン? エドワードの晴れ姿」
 そのジョアンに近付き、フィリッパがそう尋ねると、ぎこちない態度ながら頷いた。
「は、はい!」
「うふふ! そうと決まれば、忙しくなるわね!」
 フィリッパはそう言うと、上機嫌でその場を後にしたのだった。
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