黒太子エドワード~一途な想い
9章 最後の中世人

アンジュー公ルイの逃亡

 ──トマス・ホランドの死から1年も経たない1361年、黒太子エドワードとジョアン・オブ・ケントは、周囲に反対されながらも結婚した。
 11歳となり、ケント伯を継承した長男トマスも、その数年後にはアリス・フィッツアランと結婚する。
 冷静な対応をした次男のジョンも後に初代エクセター公となり、エリザベス・オブ・ランカスターを妻をもらう。
 やがて、黒太子とジョアンの間にもエドワードとリチャードの二人の子供が授かるのだが、それはまだもう少し先の話であった。

「何? 逃げた? アンジュー公がか? 一体、見張りは何をやっておったのだ!」
 結婚から約2年後の9月、王太子シャルルの弟、アンジュー公ルイが逃亡したとの知らせが、黒太子エドワードの元に入った。
 結婚後、まだ反対する者はいたものの、黒太子は妻ジョアンと共にアキテーヌに入り、そこのプリンスにも任じられていた。
 そこで、ロンドンよりは小さ目であるが、宮廷を作り、宴やトーナメントも開催していた。
 ジョアンと先代ケント伯の間に出来た子供達は、長男が既にケント伯となり、次男もじきにエクセター伯になることが決まっていた為、英国に居た。
 他の妹達はというと、まだ小さいので、ロンドンの宮廷で、王妃であるフィリッパが他の孫と共に教育史、年頃になればいい相手に嫁がせようとしていた。
 そんな矢先のアンジュー公ルイの逃亡であった。
「それで、どこだ? フランスのどこの港に着くというのだ?」
「そこまでは、まだ分かりかねます……」
 16歳になり、背も高く、肩幅もがっしりしてきた侍従のトマスが困った表情でそう言うと、黒太子はため息をついた。
「まずは、そこからか……。王太子の動きはどうだ?」
「良く言えば、ナバラ王が封じ込めて下さっております」
「あやつか……」
 黒太子エドワードはそう言うと、顔をしかめた。

 ナバラ王カルロス2世は、今から6年程前にエドワード3世と交渉しようとしたものの、信用されず、結局、エドワード3世は捕虜になっていたジャン2世と交渉したのだった。
 困ったナバラ王は、当時まだ摂政を名乗っていた王太子シャルルに下ったのだった。
 だが、1361年、ちょうど黒太子とジョアンが結婚した頃、ブルゴーニュ公フィリップ1世が腺ペストにかかり、15歳という若さでこの世を去ると、様子が変わってきた。
 15歳という若さでこの世を去ったフィリップには、当然ながら、跡継ぎがいなかった。
 そこで、ジャン2世は、息子のフィリップ(後の豪胆王)にブルゴーニュ公国を与えたのだが、そこを前々から狙っていたナバラ王は、それが気に食わなかった。
「亡きフィリップ1世の曽祖父、ロベール2世の孫ということならば、わしとてそうではないか! 長女マルグリットの娘、ジャンヌの息子なのだからな!」
 そう叫び散らし、周囲にも不満をぶちまけていたという。
「いくら女に土地相続を禁止するサリカ法があるからといって、ひどいではないか!」
と、激怒した、とも……。
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