黒太子エドワード~一途な想い
「しかし、六人か……」
 ウィリアム・マーニーが去った後、難しい表情でそう呟いたのは、ユスターシュだった。
「父上、今度は私が参ります! 父上は、皆を率いて此処を出、どこか新しい場所で……」
「断る」
 息子アンリの申し出を、ユスターシュはきっぱりと断った。
「ち、父上!」
「私は、長年この町の為に尽くしてきたという自負もあるし、この町を愛している。なればこそ、此処を出る訳にはいくまい?」
「先程まであんなに責められていたのに、ですか?」
 アンリがあからさまに顔をしかめてそう言うと、ユスターシュは哀しげな表情で微笑んだ。
「アンリ、それも顔役の務めなのだよ」
「務めって……」
 驚くアンリに、ユスターシュは哀しげな表情のまま、続けた。
「そういうものなのだよ。顔役というのはな。ある程度成功した者がなる故に、嫉妬の標的となり、足元をすくわれたりもする」
「命がけなのですよ! 足元をすくわれるとか、そういう問題では……!」
 アンリがそう叫ぶと、ユスターシュは手で「それ以上、言うな」と合図をした。
「父上……」
 まだ何か言いたげなアンリに、ユスターシュは首を横に振った。
「もう言うな! それに、アンリ、お前はまだ若い。こんな所で無駄に命を落とすな! お前こそ、逃げるんだ! いいな?」
「嫌です! 父上が行かれるとおっしゃるのなら、私も共に参ります! 今回は、先日のように譲ったりなど、致しません!」
 真っ直ぐ父の目を見てアンリがそう言うと、ユスターシュはため息をついた。
「まったく、頑固な奴だな! 一体、誰に似たのやら……」
「それは勿論、父上でしょう」
 アンリがそう言って微笑んだ時だった。群集をかき分けて、杖をついた老人が現れたのは。
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