黒太子エドワード~一途な想い

六人のカレー代表

「ひょっとして、あんたはイングランド軍の……?」
 ユスターシュがそう言いながら、その青年に近寄ると、彼は人のよさそうな笑みを浮かべながら、頷いた。
「はい。交渉を任されました、事務官のウィリアム・マーニーと申します。以後、おみしりおきを……」
 そう言うと、ウィリアムはうやうやしくユスターシュにお辞儀をした。
「そんな礼など、わしには必要無いから、やめてくれ! それより、イングランド王のことを教えてくれんか? 降伏条件を見直してくれたのか?」
「ええ、まぁ……。全員処刑等という非効率的なことはしませんよ」
 その言葉に、その場に居た者は全員、ほっと胸をなでおろした。
 勿論、ユスターシュとアンリ親子も。
「ただ、そうは申しましても、ここを落とすのに役一年もの期間を費やしてしまったことに対して、国王陛下はあまりよく思われておりません。従って、この町を代表する者に、無帽でなおかつ裸足で、首に処刑用のロープを巻いて出頭せよ、と仰せでした」
「それで、他の者は助けると?」
 ユスターシュがそう尋ねると、ウィリアムは頷いた。
「ええ。先にここから追い出された五百人の方と同様に、金と食料を少しずつ渡すので、カレーから出て行け、ということだそうです。但し、イングランドの為に働いて下さる方は、残って頂いて結構だそうです」
「おおお……」
 ウィリアムの言葉に、広場に集まっていた者達の顔に、希望の火が灯り、先程までの一触即発の雰囲気は既に消えていた。
「食料がもらえるだけでも、ありがてぇ!」
 誰かがそう叫ぶと、他の者も頷いた。
「では、交渉成立でしょうか? では、明朝までに代表の六人の方を選び、城門の鍵を持って、外に出てらして下さい」
「待て! 六人もいるのか? わし一人ではダメなのか?」
 そう言うユスターシュに、ウィリアムは冷ややかな笑みを浮かべた。
「あなた一人の命では、足りないそうです。少なくとも、あと五人、共に出てきて頂かないと、カレー市民の決意が分からないと仰せでした」
「そんな……」
 ユスターシュがそう言って目に涙をためると、その場に居た者達も肩を落とした。
「まぁ、色々あるでしょうから、私はこれで失礼します。後はゆっくりと、皆さんでご相談なさって下さい」
 そう言うと、ウィリアムはその場を後にした。
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