黒太子エドワード~一途な想い
「すまない、ジョアン……。本当は、こんなことをしなくてもいい身分なのに……」
「何を言うの、あなた? あなたとのことは、教皇様だってお認め下さったのよ! それに、この子だっているっていうのに、今更、ソールズベリー伯の所に行け、なんて言わないわよね?」
「そんなことは言わないが……」
 そう言いながらもうつむきがちな夫の顔を、ジョアンはその両手で挟むと、自分の方を向けた。
「私は、まだこれからもトマス以外の子供を産むつもりよ。だから、あなたもそんなことを言わないで、胸を張ってちょうだい!」
「そうだな……」
 トマス・ホランドはそう言うと、若く美しい妻の頬にキスをし、抱きしめた。
「ジョンのことだけでも心配だというのに、変なことを言って、すまなかった」
──そう言いながら。
「いいのよ。ジョンのことは、確かに、心配よ。でも、ケント伯の領地に戻るのは、まだ嫌よ! 又、ソールズベリー伯のことを持ち出されて、遠い親戚に嫌味を言われるのかと思うと、ぞっとするんですもの! 他の人との縁談を持ち出されても嫌だし……」
「俺の地位がもっと高ければ、君にそんな苦労は……」
「ストップ! もう、そんな風に言わないって、さっき言ったでしょう?」
 そう言いながら、ジョアンは自分の指で、夫の唇を塞いだ。
「私は、まだ幼い子供だった私に跪いて求婚してくれたことが、本当に嬉しかったの! だから、後悔なんて、していないわ!」
「ジョアン……」
 夫はそう言うと、再び妻を抱きしめた。

 ──それから約2年後の1352年、ジョアンの弟で、ケント伯であったジョンが病で急死。
 それにより、ジョアンとその夫、トマスがケント伯を継承した。
 これでもう、彼が引け目を感じることもなくなったのか、子供もあと3人授かった。
 初代エクセター伯となる次男ジョンに、後にブルターニュ公ジャン4世の妻となる長女のジョーン、次女のモードの3人だった。
 ただ、モードが生まれてすぐ、夫のトマスも病で亡くなってしまうのだが……。
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