黒太子エドワード~一途な想い

ポワティエ~前哨戦

 黒太子は、フランス軍が動き出したことを受け、トゥール地方に本拠地を造ろうとしたものの、ロワール河流域で根城となる場所を確保出来なかった上に、大雨で町を焼くことも出来ずに終わっていた。
「忌々しい……!」
 フランス軍と正面で対決することを避けようとしていた黒太子は、そう言うと、顔をしかめた。
 ここのところの長雨で、土地はぬかるみ、川が氾濫している場所もあった。
「申し上げます! フランス軍が追ってきました!」
 ぬかるみを馬でゆっくり移動していた黒太子に、兵士の一人が近付き、そう叫んだ。
「何、もう、か! 仕方ない。少しでも有利な場所に移動し、迎撃態勢をとらねばな! ここからだと、そうだな……」
「ポワティエ、ですな」
 すぐ横で、落ち着いた低い声がそう言うと、黒太子は思わずそちらを見た。
「流石だな、チャンドス」
 そう言うと、黒太子はニヤリとした。
「ポワティエにて、奴らを迎え撃つ! 全軍、急いで迎え!」
 そう叫ぶ黒太子の脳裏には、クレシーでの大勝した時のことがよみがえっていた。
 今回も長弓で戦うしかないな。恐らく、こちらの方が数の上では少ないだろうから……。
「殿下?」
 チャンドスが話しかけると、彼はチャンドスを真っ直ぐ見ながら答えた。
「長弓兵を使って、奴らを迎え撃つ! だが、それだけでは心もと無いので、川と森も使うぞ!」
 チャンドスはその言葉に対し、満足そうに頷きながら微笑んだ。
「それにもう1つ、良き者をご紹介致しましょう」
「良き者?」
「ジャン・ド・グライーと申す者にございます」
「フランス人か?」
 そう尋ねながら、黒太子は顔をしかめた。
「殿下、フランスにもフランドルの様にイングランド寄りの者もおりますぞ」
「確かに、市民はイングランド側だが、領主はフランス側だぞ、あそこは」
 苦々しい表情で黒太子がそう言うと、チャンドスも苦笑した。
「まぁ、確かにそうですが、グライーは我々の側につくと申しております。それを信じても、損にはなりますまい?」
「まぁ、チャンドスがそこまで申すのなら、使えるのは確かなのだろうしな」
 黒太子のその言葉に、チャンドスは微笑んだ。
「お分かり頂けて、何よりです、殿下。まだ奴が、我々の側についたことは、フランス側も知らないでしょうしな」
 チャンドスのその言葉に、黒太子の顔がパッと輝いた。
「それは、よい!」
「では、早速……」
 そう言うと、チャンドスは自分の部隊を連れて、先に向かって行った。
 そこは、黒太子が敵を迎えうとうと考えていた場所であった。
< 70 / 132 >

この作品をシェア

pagetop