黒太子エドワード~一途な想い

ラングドイル三部会

「もう王族や貴族連中なんかに任せておけねぇ!」
 パリは、直接戦場になってはいなかったが、農村部から流入する難民の増加と、それによる治安の悪化、物価の上昇の他に、通商路も麻痺し、経済的に打撃を受けていた。
 そんな彼らの不満が、王太子シャルルに向かって爆発したのだった。
「何だ、あやつらは!」
 父王ジャン2世を解放する為、その身代金の捻出を要求しようと思っていた王太子シャルルは、三部会の末席から口汚く罵る声に、顔をしかめてそう言った。
「父や祖父の時は、すんなり要求を呑んだのではなかったのか?」
 小声でそう呟くように言うシャルルの顔は青ざめ、足が震えていた。
「何故、私の時だけこのようなことになるのだ……? これも、時代のせいなのか?」
 彼が小さくそう呟いた時、第3身分の者が座る末席で、誰かが大声で叫んだ。
「王国の改造を求める! もう貴族や王族の言うことを聞くだけの暮らしなど、うんざりだ!」
 それに対し、その近くからすぐに賛成の声が上がった。
「そうだ、そうだ!」
「我らの声をもっと取り入れろ!」
「王侯貴族の言いなりは、もうたくさんだ!」
「……好き勝手なことを叫びおって!」
 それを一段上の所で聞いていたシャルルは、そう言いながら拳を握り締めたが、その声は小さすぎて平民達には届かなかった。
「では、どうしたいのだ、具体的に?」
 第一身分の聖職者の一人が、そんな王太子シャルルを見かねたのか、騒ぐ平民にそう尋ねた。
 その問いに、先程まで騒いでいた平民達は顔を見合わせた。
 彼らからすると、不満が色々溜まっていて、そのはけ口にしたものの、具体的にどうしたいということまでは考えていなかったのである。
 そんな中、一人の男が立ち上がった。
「顧問会議の設立を求める!」
──そう叫んで。
 エティエンヌ・マルセル。後の歴史家等に「中世のダントン」と呼ばれることになる、裕福な衣類商の一族に生まれたその男は、この時、42歳だった。
 
 
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