LOZELO



「黒川さん、体調悪いの?」


息を切らして、ぼさぼさの頭をさらに乱して、血相を変えて。

一緒についてきた石山さんも心配そうに私を見ているから、声を絞り出す。


「だるいだけです」

「顔色、悪い。お腹は?」

「ちょっと、だけ」


無言で私の右手首を強めに掴むから、何かと思ったら脈を測っているらしかった。


「今日は安静にしてるように。もし下血がひどくなったり、急にお腹に激痛が走ったりしたらすぐに看護婦さんに教えて」


あまりにも真剣な表情に、はい、と返事をすることしかできなかった。

怒られてるわけじゃないけどそんな気分。


「今、黒川さんには、自分ことに誰よりも敏感になってほしい。少しの変化でも伝えてほしい。たとえなんでもなかったとしても、言わないより言ってくれた方が安心だから」


自分のことって、自分が一番わからないものだと言う。

言ってどうなるの?

良くなったら、退院しなくちゃならない。


「…私が元気になったら」


石山さんもいる手前、躊躇して口が動かなくなった。

聞こうとして私の顔の脇にしゃがんだ江口先生は、私の心を必死に探しているのかもしれない。


「…調子が良くなったら、話すんで」


江口先生は、少し微笑んで頷いてくれた。


「体調が悪いのは我慢しなくていいから。あと、言いたいことも。どんなに理不尽なことでも、吐き出していいんだよ」


体調が悪い私は反撃できないと思って、信用させようとしてるんでしょ。

そして早く体を治して、退院させようとしてる。

そんな思いがまだ、半分くらい。


「自分を、大事にしてもいいんだよ」


力なく返事をするのが精一杯の反応だった。

江口先生は、何かあったらすぐに看護婦さんを呼んでとダメ押しして去って行った。
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