LOZELO



***


気がついたら眠っていて、夜の検温のときに起こされて。

再び起こされたと思ったら、朝の検温に来た看護師さんだった。

体調は若干良くなっていた。

でも、朝はいつもトイレにこもってしまう。腹痛と共に。

血生臭さと現実に吐き気がこみ上げる。

何も口にしていないから、何も出てこないに決まってるんだけど。

トイレの前でばったり優奈ちゃんと会って、おはようよりも先に泣きそうな顔で"大丈夫?"と私の心配をする。


「看護婦さんに、紗菜ちゃん具合悪いから行っちゃダメだよって言われて、心配してたんだよ」

「今日は元気だよ。心配かけてごめんね」


優奈ちゃんが検査から帰ってきたことも気づかなかった。

しゃがんで頭をなでると、よかったぁ、とにっこり笑ってくれる。


「検査、どうだった?」

「神崎先生が"合格"だって!来週に退院できるって言ってたよ!」

「ほんと?よかったじゃん!」


すごく涙が出そうになった。

ただ純粋に、嬉しくて嬉しくて。

そんな私に、優奈ちゃんはにっこり笑って言う。


「今度は紗菜ちゃんが元気になる番だよ」


どうして、優奈ちゃんに言われると心に沁みるんだろう。

助けてくれるわけでもないのに、本気かなんてわからないのに。

病室に戻って、こっそり泣いた。

どうして泣いているのか。

そう問うても、自分は答えをくれなくて。


"自分のことに誰よりも敏感になってほしい"


江口先生の言葉が浮かんで、ふと涙が止まった。

それって、どういうこと?

改めて考えると意味がわからなくて、胸の辺りがもやっとしている。

自分のことだけ考えてたら、知らないうちに誰かを傷つけるかもしれないのに。

どんどんワガママになるんじゃないのかな。

今日は土曜日で回診が遅いらしい。

回診の時間まで考えたけど、結局答えは出なかった。
< 58 / 177 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop