LOZELO
「さっき莉乃が言った通りですって」
「黒川さんの口から聞かないと、納得できない」
話せば長くなる。重い話だ。
共感できる人なんていないし、私の気持ちを完全にわかる人もいない。
だから、言うつもりなんてない。
沈黙を決め込んでいると、江口先生はちらりと腕時計を見た。
忙しいくせに。私なんかに構ってる暇があったら、仕事だっていっぱいあるんだろうに。
「今日は上手く話せそうにないです。頭が働かない」
突き放したいわけじゃない。嘘はついてない。
仕事に戻ってほしいし、私も今は少し休みたい。
「…じゃあ聞いてもいいかな」
「なんでしょう」
力ない目で江口先生を見つめたのは、倦怠感が体を包んでいるから。
「黒川さんは、どうしたいんだろう」
「なにも、思わない」
「もし、黒川さんがこの世の誰からも愛されていて、何をしても受け止められる世界なら、黒川さんは何をして、どう生きたいと思う?」
考えてみて。
そう言って椅子から立ち上がった江口先生は、私の体調を気遣う言葉を残し、カーテンの向こうに消えていった。
他人の目がなくなった途端、わかりやすく脱力感が私をベッドに押し付ける。
先生の言葉が頭の中でリピートしてる。
でもその意味がわからなくて。
とりあえず莉乃にメールを返そう。
少し寝る、って。