LOZELO



「さっき莉乃が言った通りですって」

「黒川さんの口から聞かないと、納得できない」


話せば長くなる。重い話だ。

共感できる人なんていないし、私の気持ちを完全にわかる人もいない。

だから、言うつもりなんてない。

沈黙を決め込んでいると、江口先生はちらりと腕時計を見た。

忙しいくせに。私なんかに構ってる暇があったら、仕事だっていっぱいあるんだろうに。


「今日は上手く話せそうにないです。頭が働かない」


突き放したいわけじゃない。嘘はついてない。

仕事に戻ってほしいし、私も今は少し休みたい。


「…じゃあ聞いてもいいかな」

「なんでしょう」


力ない目で江口先生を見つめたのは、倦怠感が体を包んでいるから。


「黒川さんは、どうしたいんだろう」

「なにも、思わない」

「もし、黒川さんがこの世の誰からも愛されていて、何をしても受け止められる世界なら、黒川さんは何をして、どう生きたいと思う?」


考えてみて。

そう言って椅子から立ち上がった江口先生は、私の体調を気遣う言葉を残し、カーテンの向こうに消えていった。

他人の目がなくなった途端、わかりやすく脱力感が私をベッドに押し付ける。

先生の言葉が頭の中でリピートしてる。

でもその意味がわからなくて。

とりあえず莉乃にメールを返そう。

少し寝る、って。
< 71 / 177 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop