飼い猫と、番犬。【完結】
「沖田助勤!?どうかされたんですか!?」
下まであと数段というところで俺達を見つけた隊士が慌てて近寄ってくる。
パッと見、前身頃は返り血に濡れているから斬られたとでも思ったのだろう。
ピクリと跳ねた沖田に笑いそうになりつつ、その顔を隠すようにそっと抱え直して身を寄せる。
「軽い暑気あたりや。まぁ少しばかり怪我もしとるし此所じゃなんやから先戻らせてもらうで」
「あ、はいっ」
取り敢えず、此処から離れてしまえば大丈夫だ。仕事用に使っている隠れ屋にでも行けば大方の物は置いてある。
そのあとでまた顔を出せば問題はないだろう。
漸く人手が増え、斬り捨て御免から捕縛へと切り替えたのか、表には縄で縛られた男の姿か幾つか転がっている。
加えて視界に映るのは辺りを囲む奉行所の人間達と、その中でも一際堅物そうな男と対峙する副長の姿。
奴等が動かないところを見ると、中での事はうちの人間だけで済まそうとしているらしい。
まぁ奴等が入ればどうせ手柄は横取りされる。そういうところは流石副長だと思う。
俺達が表に出ると、気配を感じたのか一瞬その目が此方を向いた。
途端に俺に回った沖田の手が僅かにぎゅっと強くなる。
単に気まずいというよりは、逃げるような、すがるような。
そんないつもと違う空気を腕の中に感じながらも、俺はそのまま人垣を避けるように脇の小路へと足を向けた。