飼い猫と、番犬。【完結】
「はー……」
少々開きの悪い戸を開けて中に入ると私は深く息を吐いた。
まだ十分に明るい外とは違い、窓のない此処は、戸を光の枠が縁取るくらいの明かるさしかない。
大の大人が二人寝転ぶのがやっとだろう此処は、屯所から少し離れたところにある古い長屋の一画。
湯屋に行く前、私は必ず此処に寄る。先程の言葉もあながち嘘ではなかった。
けどこれは日野からの仲間内しか知らないことで。故に山野さんに知られる訳にはいかなかったのだ。
いつものように部屋に上がってすぐに置いてある油皿に火をいれ、隅に置いた行李(蓋のある物入れ)を開ける。
京に上って半年、流石にもう慣れた。
袴の紐をほどいて長着を脱ぐと、襦袢越しに感じる空気の冷たさに全身を震えが走る。
これからの時期は結構辛いものがありますよね、これ。
想像するだけで寒いそれを溜め息と共に吹き飛ばして、行李から取り出した着物に袖を通していく。
けれど一度湧いた不満は呼び水の如く負の感情を引き寄せた。
仕方ないこととはいえ正直この二度手間はかなり面倒臭い。
別に私は構わないんですけど……。
しかしこうすることが、私が京についてくる時に出された条件の一つだった。
するすると帯を巻きながらも心はどんどん冷えていく。
日野で着ていたこの着物も、今は何故かずしりと重たく感じた。
だってどちみち、あそこにいる以上私はもう……。
「やっぱし自分女子(オナゴ)やってんなぁ」