飼い猫と、番犬。【完結】
それから、たった数日後の事だ。
山南さんが忽然と姿を消した。
助勤以上だけが集められた局長室で聞かされたその事実に、皆が瞠目する。
「……え、嘘だろ?」
「嘘じゃねえ。江戸に帰(ケ)ぇるんだとよ」
やっと言葉を発した左之さんに土方さんから投げられたのは、丸められた小さな紙だった。
皆で覗き込むと、確かにそこには山南さんの字で『江戸へ』とだけが書かれている。
これって……。
「脱走だ」
恐らく皆が頭に浮かべた言葉を、土方さんが代わりに続ける。
脱走──その言葉の衝撃に、途端に部屋が静まり返った。
うちには芹沢さんの暴挙に悩まされていた時、土方さんらによって定められた鬼の法度と呼ばれる絶対の隊規があるからだ。
違反した者はその隊規によって罰せられる──と言えばまだ聞こえは良いが、それは即ち死を以てあがなえということで。
そしてそれは、もしかしたら山南さんにも当てはめられるかもしれないということで。
そうなれば山南さんは……。
「で、でもよぉ、同じ釜の飯を食ってきた仲間じゃねぇか。それに総長だぜ?まさかあの人まで……」
「例え総長でも例外はねぇ、寧ろ総長なら尚更だ。ここで逃がしてみやがれ、下に示しがつかねぇだろうが」
キュッと、唇を噛み締める。
土方さんの言い分もわかる。
けれど、何で、どうしてという思いの方が強い。
……だって山南さん、ですよ?
そりゃ頑固なところもありましたけど、いつも優しくて穏やかで、頭も良くて、昔からずっと一緒にやってきて……なのにどうして……どうして貴方は──
「土方、さん」