飼い猫と、番犬。【完結】



もうじき桜の季節になるとはいえ夜の空気はまだ冬の匂いがする。


冷えた空から朧気に降り注ぐ月明かりを極力避け隠れ屋に着くと、油皿に小さな明かりだけを灯し、相変わらず呆けたままのそいつに向き合った。



「なぁ沖田」


やはり反応はない。


気付け薬でも飲ませれば多少の反応は見られるのかもしれないが、あまり強引な手は下手をすれば状況を悪化させるだけだろうから止めておく。


正直どうしたものかとも思うが、このまま放っておくわけにもいかない。


任された、ということ以上に俺自身がこのままでは許せないのだ。



「……」


きつく噛んだのだろう、唇には既に乾いた血が痛々しく滲んでいる。


それをそっと親指でなぞり、動かないその身を抱えて壁に背を預けた。



「妙なとこで繊細やなぁ自分」


今まで何人も殺してきた癖に。


昔のことは簡単にだが副長から聞いている。これにとって此処の幹部連中は実の家族以上の存在なのだろう。


京についてきた一番の理由も恐らくそこだ。


それをあんな形で失う羽目になったのだ、逃げ出したくなるのもわからないでもない。


人一倍家族意識の強いこいつにとって、見ず知らずの浪人を殺すのとは話が違う。


介錯とはいえ自分が直接手を下した、それは自らを苛むには十分過ぎる行為だろう。



……あん人もまた惨(ムゴ)いことを。


そうは思えど皆其々に想いがあるのは当然。死んだ人間のことを今更どうこう言っても仕方がない。


取り敢えずは目の前のこいつだ。


されるがままに足の間に納まり瞬くだけのその横顔に視線を移し、そっと髪を指で梳いた。
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