飼い猫と、番犬。【完結】
副長不在時に局長が溜め込んだ書簡諸々に追われ、ここ数日副長の就寝はいつもより遅い。
この日もその部屋だけは仄かな明かりが灯っていた。
監察方として、隊内で起きた揉め事は一応全てが報告対象だ。
いつもなら小刻みに震える灯りの中で筆を走らせるその人の背に簡単な成り行きを話し終えれば、そのまま部屋をあとにする。
だが今日は、淡々と返事をするだけだったその人に、言葉を続けた。
「どないしはるんですか?」
「……別にどうもしねぇよ、俺がどうこう言うもんじゃねぇだろ」
あくまで冷静に正論を吐く副長に、俺はわざとらしく溜め息をつく。
「まぁそない言わはるんやったら俺はかまへんけどな。どっかの誰かが冷たぁしやるさかい、あれも俺を拠り所にし始めたみたいやし」
一瞬止まった筆が、紙に書かれた文字列に黒い滲みを作る。
舌を鳴らしてそれを丸めた副長は漸く諦めたのか、筆の代わりに煙管を取った。
「……俺はあいつじゃなくかっちゃんを……局長を、この新選組を取った。俺にとやかく言う権利はねぇんだよ」
はぁ、と歯の隙間から紫煙を吐いて、副長はグシャグシャと頭を掻く。
眉間に皺を刻み、どこか哀愁を漂わせて畳を睨むその顔は、久々に見る鬼の面を外した姿だった。