好きを百万回。


大好きだった手。

「分かったからもう言うな」

撫でる手を止めて、少し寂しそうな笑顔を向けられた。

野波さんが給湯室から出て行く。

野波さんのハンカチを握りしめて、こみ上げる想いも涙も全部無理矢理抑えつけた。

「コーヒー、持って行かなきゃ・・・・・!


野波さんの香りが身体の周りにほんのり残っているような気がする。

振り切るようにカップの並んだトレイを持って勢いよく給湯室を出た。


日々は変わりなく過ぎて行く。
気がつけば出勤するのも今日で最後。後は有休を消化して終わりだ。


「なんか銀行でやり残したこととか心残りとかないんですか?」

志田くんが聞いてきた。

「あるわよ」

「何ですか?」

「志田くんを一人前にできなかったこと。まだまだやもんねぇ、心配やわ」

「酷いなあ、大分デキる男になったと思ってるのに」
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