薬指の秘密はふたりきりで

いや、君も忙しいのは分かってるんだが、って心底申し訳なさそうに言う課長の目の下には、大きなクマが出来ている。

かなりのお疲れモードだ。

もしかして、土日返上で仕事をしていたのかもしれない。


「はい。良いですよ。行ってきます、お任せください。それで、何方を訪ねていけばよろしいのでしょうか?」

「すまないね、これが住所で、この、佐伯さんて方を訪ねてくれ。君が行くと連絡をしておくから。場所は、駅から近いからすぐにわかるはずだよ」


課長から書類ケースと一緒に名刺を受取って、紗也香に後を頼んで課を出た。

名刺の住所はここから3駅向こうぽい。

裏を返してみると、佐伯さんの携帯番号らしきものはあるものの、地図みたいなものはない。

簡単だって言われたけれど、調べてきた方が良かったかな。


「ま、最悪、A社に電話して聞けばいいか」


エレベーターのボタンを押して待ってると、すぐ後ろに人が立った気配がした。

上から移動してくるランプを見て、5階まで来たところで、扉が開くのを待った。

まだ始業したばかりのこの時間は、階を移動する人も少なくて誰も乗っていない。

先に乗り込んで1階のボタンを押して、後に乗り込んだ人に何階に行くのか尋ねる。

―――と。


「・・・亮介」

「どこに行くの?」

「あ、私は、課長のお使いでA社まで行くの。でも、場所がちょっとわかりづらくて・・・亮介わかる?」


ダメ元で名刺を見せると、亮介は一瞬考えるそぶりをしたけれど、すぐに答えてくれた。


「ここなら、S駅の南口出て正面のとこだ」

「ありがとう。何で知ってるの?」

「たまたまだよ。S駅にはよく行くからな」

「そう、なんだ。あ・・亮介は、どこに行くの?」
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