薬指の秘密はふたりきりで
会社に戻ると、受付のカウンターには亮介の姿はなかった。
自動ドアが開いた瞬間、とびきり満面の笑顔でこっちを見た神田さんは、私だとわかるなり、ツン!とそっぽを向いた。
あからさまな態度過ぎて、笑うことしかできない。
「お疲れさまです」
通りざまに声をかけると、神田さんは、何かの作業をしながら「あなたもかわいそうよね」と言った。
「はい?私ですか?」
「勿論よ。他に誰がいるのよ」
確かに、玄関ロビーには私と神田さん以外は誰もいない。
「かわいそうって、どういうことですか?」
「そのうち分かるわよ。だから、せいぜい覚悟しておくことね」
そう言ったきり、神田さんは仕事に戻った。
覚悟って、言われても。
何があるのか分からなければどうしようもない。
何のことか気になるけれど、神田さんからは話しかけないでオーラがメラメラと燃えるように出ていて、これ以上何も聞き出せそうになかった。
もしかして、亮介に何か言われたのかな。
それとも、全く別のこと?
かわいそうで、覚悟するようなことって、一体何だろう――――
その日のお昼、社員食堂で紗也香とランチしていると、亮介からlineが入った。
『今夜は行けない』
とてもストレートで簡潔な文。
これだけだと、残業するのか、急に他の用事が出来たのか、全くわからない。
まさか、誰かと約束したから・・・なんてこと、ないよね?
亮介が神田さんに呼ばれてたことや、私に言ってたことも気になってて、普段はしない追及をしてみた。
亮介の短文を頑張って拾って何度かのやり取りをした結果、新しい仕事にかかることになって、かなり忙しくなるということがわかった。
そっか。また、会えなくなるんだ。
普段でも、システムの不具合とかで地方に呼ばれて行って、会えないことが多いのに・・・。