薬指の秘密はふたりきりで
アパートに帰ってすぐ、鞄の中身を取り出していると、スマホがlineの着信を告げていた。
「うそ・・・亮介からだ」
見ると、残業真っ最中な時間にくれていて、もうずいぶん時間が経ってしまってる。
「やだやだ、この時期は残業があるってわかってると思うけど――――」
電車の中でスマホを見ればよかったと激しく後悔しながら慌てて開くと、そこには、嬉しい文字が書かれていた。
『明日帰りに寄る』
「うそ。明日、帰ってくるの?来週じゃなかったっけ」
反射的に、ベッド脇の壁を見る。
そこにある花の絵柄のカレンダーには、来週の金曜日に大きな赤丸印がある。
早くなったんだ。
一気に胸が高鳴って、疲れて固まっていた顔がふにゃあっと崩れる。
明日、だなんて。
『夕食はどうするの?』
そう訊くと、すぐに、『食べる』って返って来た。
今、亮介もスマホ見てるんだ。
そう思うと、亮介と繋がってる気がして、胸がほんわりとあったかくなる。
私って、単純だ。
『わかった。じゃあ、亮介の好きなハンバーグにする』
可愛いスタンプ付きで送る。
と。
『ああ。よろしく。じゃ』
「・・・じゃって、久しぶりなのに、これでおしまいなの?」
スタンプも何もない、そっけないlineの画面をじっと見る。
『おやすみ』って送るけれど、亮介からは何のメッセージもなくて、ため息をつきながらlineを閉じた。
無口な亮介らしいって言えばそうだけど、もう少し『ハンバーグか、楽しみだな』とか『おやすみ』とかの会話があってもいいのに。
でも。まっすぐ家に帰らないで私のところに寄ってくれるなんて、“会いたい”って、少しは思ってくれてるのかもしれない。
明日は金曜日だし、もしかしたら、泊まってくれるかもしれない。
「大変!来るなら、部屋の中、キレイにしておかなくちゃ」
既に夜中の11時。
メイク落としもそこそこに、わたわたと片付けを始めた。