薬指の秘密はふたりきりで
彼、長谷川亮介は同じ会社に勤める一つ歳上の29歳。
システム開発課所属で、今は福岡に出張中だ。
あちらは新規営業所の準備中で、システムの設置やら使い方の説明やらその他もろもろいろいろあって、かれこれ1ヶ月近くも行ったまま帰ってこない。
システム開発課の子からちらっと聞いた噂だと、来週帰るどころかもう少しかかりそうってことだったのに、予定外なことに慌ててしまう。
亮介も、もっと早く連絡くれればいいのに、間際過ぎる。
まあ、私だって、忙しさにかまけてlineもしてなかったから人のこと言えないんだけど。
でも、明日、会えるんだ。
そう思うと、掃除ばかりしちゃいられないことに気づく。
そう、体のお手入れもしておかなきゃ。
お気に入りのバスソルトを入れて念入りに体を磨いた風呂あがり、潤うって口コミ№1のスキンマスクをしながら、習慣になってるハンドケアを始める。
クリームをたっぷり取って、てのひらで暫く温める。
そして、爪の周りを押すようにマッサージした後、指先から付け根までゆっくりと滑らせる。
各指同じようにして、あとは甲とてのひらをマッサージしてハンドクリームを全体に馴染ませるのだ。
私の手は、指が長くてバランスが良くていいと、よく褒められる。
色も白いから、『手のタレントさんになれそうね』と親戚のおばちゃんに言われたことがあるし、実際に、ジュエリーデザイナーである友人に頼まれて、指輪のモデルになったことが何度もある。
顔もスタイルも十人並みで、これしか自慢できるところがないのが、哀しいところだけれど、亮介も、私の手が好きなんだと思うのだ。
初めて会ったときに、ボソッと言われたことを思い出す。
『手、綺麗だな』