イジワルな先輩との甘い事情



スマホの電源を入れるのがこんなにも怖かったのは、初めてかもしれない。

終わりにしたいと口にしたのは私なのに、それに対して先輩からなんの連絡もなかったらと思うと怖いんだから、私もよっぽどダメなんだなぁと思う。
好きで、だから終わりにするべきだと思ったのに。
それでも先輩からの連絡を期待してるなんて……わがままにもほどがある。

結局、電源を入れられないまま翌朝を迎える事になった。

泣きはらした目を鏡の前で目の当たりにして少し驚いたけど、すぐに冷やさなきゃと頭を切り替えた。
失恋したからって会社を休むわけにはいかないんだから、しっかりしないとダメだ。

先輩は……恋愛事情だとかの私情を、仕事に持ち込まない女の子をカッコいいって言っていた。
だったらせめて、私もそうなりたかった。
隣にいられなくても、せめて先輩の好きな部分を持つ自分でいたいと思うのは、自己満足かもしれないけど、先輩には迷惑がかからないハズだから。

うっかり油断するとすぐに涙が溢れそうになるから、常に考え事を探して会社に行く準備をして。
頭の中でしりとりをしながら電車に揺られて出社した。

出てくる単語が、たまに先輩に繋がってしまって……その度、胸が痛かった。

「柴崎」

デスクに着くなり課長に呼ばれて、何かと思って行くと、一枚の紙を渡される。
映画のチケットくらいの大きさで、画用紙くらいの厚みのある紙を、何かと思って裏返して……「あ」と声が漏れた。


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