イジワルな先輩との甘い事情


「今日明日休めばだいぶよくなるんじゃないですか?」
「明日……あ、そっか。お休みだっけ」
「休みですよー。勤労感謝の日でしたっけ」

「そっか……」と返しながらも先輩の事を考えていると、安藤さんが呆れたように笑う。

「心配なら今日帰りに寄ってみたらどうですか? 古川さんに先越される前に行けるように、私も全力で締めの作業手伝いますから。出し抜いてやりましょうよ」

ニヤッと笑う安藤さんと預金課に向かって歩きながら「でも、だから古川さん今日見かけないんだね」と話すと、安藤さんが「そういえば」とぽつりと言った。

「私、出勤した時、更衣室で一緒になったんですけどね、なんか元気なかったんですよね。
いつもはやたらと親の七光りパワー勘違いして自信ありますー私モテるんですーみたいなオーラまとってて心底鬱陶しいんですけど、今日はそういうのなくて。
なんかあったんですかね」
「……そうなんだ」
「まぁ、あれだけ周りに敵作って歩いてたら、そこら中から反撃されそうだから何かあっても何も不思議じゃありませんけどね。
泣かした女子社員も何人かいるみたいですし」

園ちゃんといい松田といい安藤さんといい。
一貫して悪い古川さんの印象に苦笑いしつつ、課に戻って残っていた締めの作業を終えた。

それから更衣室で着替えて……鞄の中、電源を切ったままのスマホを見つめ、眉を寄せる。
体調悪いって言ってたけど、会社休むなんてよほどだ。
先輩は一人暮らしだし、こういう時看病してくれる人っているのかな。


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