イジワルな先輩との甘い事情


それでも、仕事だけはきちんとしないと、とまるで呪いみたいに頭の中で繰り返して午後の仕事を終えて。
メール便で送る書類を、指定されている場所に置いてから三階に戻ってきた時……あれ、とふと思った。

そういえば今日は古川さんを見ていない。
ここ二週間くらいは毎日のように融資管理課にきてたから、目にしない日はなかったのに……今日はどうしたんだろう。
たまたまだろうか。

疑問に思いながらも、まぁ、そんな日もあるのかなと預金課の方に向かって歩き出した時。
給湯室から出てきた安藤さんに気付いた。

「あ、ごめん。もしかして洗い物溜まってた?」

聞くと、私に気付いた安藤さんが「いえ。少しですし、こういうのは下っ端の役目ですから」と笑い、それから「そういえば」と続けた。

「今日、北澤さんお休みらしいですね。風邪だとか聞きましたけど……大丈夫ですか?」
「え……そうなの?」

驚いて聞くと、安藤さんも少し驚いたような顔をする。

「え、知らなかったんですか? てっきり知ってるかと思ってました」
「あ……うん」
「さっき、洗い物してたら融資管理課の人が休憩ってコーヒー飲みにきて、その時聞いたんですけど、北澤さん、先週くらいから体調崩してたらしくて。
それでもずっと無理して仕事してたらしいですけど、それが祟ったのか本格的にダウンしちゃったとかで」
「そうなんだ……」

じゃあ……昨日会った時も体調悪かったのかな。
そういえば、キスした時、やけに先輩の唇を熱く感じた気がしたけど……あれって、熱があったから?


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