イジワルな先輩との甘い事情
「先輩、好き……」
キスの合間に独り言のように呟いた私を、先輩が至近距離から見つめて。
「知ってる」そう微笑んでからまた唇を合わせた。
北澤先輩との関係に、名前をつけるとしたらなんだろう。
それを先輩に確認する事も、自分で正しい答えを見つける事もしない私は……臆病者だ。
私や北澤先輩が勤めるのは、地方銀行。従業員数や実績で見れば大手と言っていいかもしれない。
私や園ちゃん、そして松田が大学を卒業して入社したのが二年半前。
北澤先輩は、私と同じ大学を私よりも二年先に卒業し一足先にこの会社に就職を決めていた。
私がこの会社を選んだのは、福利厚生がしっかりしているだとか場所だとかが理由で、決して先輩を追いかけてきただとか、そういうわけではない。
大きな会社で誰でも知っている名前のところだから、そんな悪い職場環境じゃないだろうと、ネームバリューの力に過度の信頼を寄せたりしての事だ。
先輩がこの会社に内定を決めたって知った大学二年の頃から、意識していなかったかと聞かれれば……答えはノーではあるけれど。
北澤先輩が配属されているのは、融資管理課。入社してから三年弱は融資の窓口として営業活動もしていたけれど、去年、管理課に異動になった。
預金課に配属されている私にとっては、普段関わらない課だし仕事の内容もよく分からないけれど、先輩が優秀だっていう話はそれでもよく聞く。
入社して三年目の年に融資管理課に異動になるなんて異例だって。