イジワルな先輩との甘い事情



長井工業のクリスマスパーティーは、思っていたよりも軽い雰囲気の中で行われていた。

預金課は強制召集をかけられてたけど、その日は少し仕事量が多くて。
15分ほど遅れて着いた長井工業の会議室に入ると、まず、家具調の大きなステレオが目につき、その奥に十卓ほどのテーブルと、それぞれのテーブルの周りに立つ招待客に気づく。

クラシックのBGMが流れる中で行われているパーティは、フランクな婚活パーティと言った方が近いだろうか。
キャッキャ騒ぐわけではなく、しっとりと話してる、そんな感じだった。

ひとつのテーブルについている人数は男女ふたりずつ。
つまり、40人は強制的に参加させられたというわけで……どこの会社も大変だなと苦笑いがこぼれた。
もっとも、うちの会社でこのパーティが罰ゲーム状態になっているだけで、他の会社にとっては違うのかもしれないから、なんとも言えないけれど。

預金課の人たちと入口に立ったまま眺めていると、従業員の方が気づき、テーブルまで案内してくれる。
きっと、長井工業の社員さんなんだろうけど……主催者側も若社長以外は乗り気に思えないし、本当大変だなぁと同情に近い気持ちを抱きながら、案内してくれる後ろを歩いた。

途中、私に気づいた松田が軽く手を上げたから、笑顔を返す。
そして、「こちらです」と案内されたテーブルには、知らない男性がふたりと女性がひとり、既に話をしていた。

なんだか映画の話をしているらしいのは分かったけど……映画は、先輩におもしろいよって言われたのを少し見るくらいだから、あまり興味を持てない内容だった。


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