イジワルな先輩との甘い事情


私に気づいて会釈してくれた人に同じように返したものの、話はまだ続いていた。
話を中断させてまで挨拶をするのも申し訳ないし、それに正直そこに入るのも面倒に思えてぼんやりと室内を眺めていると。
そのうちに、隣のテーブルから送られてくる視線にふと気づいた。
見ると、北澤先輩がこちらを見ていて。

私が気づくと、にこりと優しく微笑まれた。

私も笑顔を返したけど、先輩はすぐに隣に立つ女の子に何かを話しかけられ、視線が外れてしまう。

先輩に話しかけた女の子は見た事がない子だった。同じ会社の社員は同じテーブルにはならないようにしてあるって松田が言ってたから、長井工業と繋がりのある別の会社の社員さんなのかなとその様子を眺めていて……。
きつく締め付けられた胸に、きゅっと口の端を引いた。

先輩が女の子に優しく微笑んで相槌を打つのも、女の子の話に笑うのも仕事のうちで、仕方ない事なのは分かってる。
クリスマスイブだろうが、仕事だし、ふたりきりで過ごせなくても仕方ない。

本音を言えば……やっぱり、残念だなとは思うけど。
だからってそれを先輩に言ったところで、先輩に謝らせるのも嫌だし、困らせるのも嫌だから今まで言ってこなかった。

それを、先輩は嫌がってるんじゃないかって園ちゃんは言ってたけど……そうなのかな。
イブ一緒に過ごしたかったのに……なんて事言ったって、先輩はどうする事もできないし、困るだけなんじゃないのかな。

そんな風に思いながら先輩を眺めていた時、隣に立つ男の人に「どうかした?」って話しかけられた。
慌てて視線を移すと、黒いシャツにジーンズ姿の男の人がこっちを見て首を傾げていたから、「いえ、なんでもありません」と曖昧に笑顔を返す。

長めの茶髪っていう髪型は社内にはいないから、少し戸惑う。

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