イジワルな先輩との甘い事情



――可愛いね
――こっちにおいで

北澤先輩の声に乗せられた言葉だったらそれだけでなんでも嬉しいし、“花奈”って私を呼ぶ声も大好き。

それでも、願う事はいつもひとつ。

いつまででも待つから。ずっと待っていられるから。
いつか私に“好き”の言葉をください。

「都合のいい女でいいんです……。それでもいいから……」

捨て身で臨んだ告白に、北澤先輩は「いいよ」と優しく微笑んだ。



「そもそもの告白がおかしかったから、そんな犬と飼い主みたいな関係になってんのよ」

呆れたような口調で言いながら、ドーナツで出来た山の一角に手を伸ばすのは、同期の園田真美。
二年半くらい前に受けた新人研修からの仲だから、もう同期というよりは友達って関係の方がしっくりくる。

なんでもはっきりと言う園ちゃんに反論はしないで、私もドーナツをひとつ、手元の小皿に取り分けた。

土曜日の午前11時。
開店と同時に入ったドーナツ店では、毎月第三土曜だけ、高いモノも人気のあるモノもすべてのドーナツが食べ放題になるため、まだ開店二十分だっていうのに店内は満席に近かった。

甘いものとバイキングの組み合わさった言葉に過剰反応を示すという、特異体質を持つ園ちゃんに誘われたのは昨日。
急な誘いだったけれど、三時からは約束があるからそれまででいいならと付き合う事にした。

園ちゃんが、犬と飼い主と例えたのは、北澤先輩と私の関係だ。

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