イジワルな先輩との甘い事情


打ち込んだ伝票を、トントンとデスクの上で揃えて、安藤さんのデスクに「これ、精査お願い」と置く。
五十日(ごとうび)でもないし、月末でもないから仕事量は少ない。
先週まで躍起になってしていた試験勉強ももうないし……割と手持無沙汰だ。

何かやる事を探して、営業の人が使うハンディ端末の入出金伝票を作ったり、安藤さんへのコーチ内容の記録をまとめたり。
それでも時間が余ったから、安藤さんに席を外すことを伝えて書庫に向かった。

書庫にある古い伝票を段ボールにまとめて倉庫に移動させなきゃって事を思い出したからだ。
頼まれたわけではないけれど、どうせ近々頼まれる事になるだろうから、課長に許可を得て先にやっておく事にする。

毎日の伝票は、一日ごとにまとめて一冊の冊子にしてある。
背表紙には日付が書かれていて、それは書庫に毎日並べていっているけど、ここ最近は置き場がなくなっていて困っていた。

だから、課長に相談して第一倉庫への移動の許可をもらったはいいけど……書庫に置いてある棚は天井ぎりぎりまで高さがあるから、上の方は脚立でも使わない限り届かない。
それに、紙って意外と重いし、ちょっとひとりじゃ無理かなぁと目の前の伝票の山を見て考えていた時。

「柴崎じゃん」と声をかけられた。
入口を見れば、へらって笑う松田の姿があって驚く。

< 38 / 177 >

この作品をシェア

pagetop