イジワルな先輩との甘い事情


「なんでもありません」
「そう? もしかしたら怒ってるのかと思った」

何に対してだか分からなくて「怒ってる?」と繰り返すと、先輩が指を折りながら答える。

「第一倉庫で無理やりキスした事とか、安藤さんの前で言った事とか……安藤さんが俺を狙ってるのが冗談半分って気付いてたのに黙ってた事とか」
「えっ、安藤さんが本気じゃないって、気付いてたんですか……?」
「同じ課で、安藤さんの事を気に入ってるヤツがいて、よく話されるんだけど、あまり恋愛に熱をあげるような子じゃないって聞いてたから。
それに仕事でキャリアアップ狙ってるらしいしね。今は恋愛より仕事なんじゃないかな」
「あ……そういえば、管理職狙ってるって言ってました」
「実現したらいい管理職になるんじゃないかな。多少、部下をからかいすぎそうだけど、頭が固いよりよっぽどいい」

からかわれた身としては頷きにくいけど……先輩の言っている事は分かるだけに、苦笑いを浮かべていると「怒ってる?」と再び聞かれた。
そうは言っても、先輩は笑みを浮かべているし、本気で私が怒ってるかどうかを心配しているわけじゃないんだろうけど。

「怒ってはいません。けど……安藤さんに言った言葉……あれじゃ、まるで私がマゾみたいじゃないですか。
何されても好きで、好きすぎて泣くだなんて」

じろって感じで見ると、先輩が笑う。
その顔に、やっぱり先輩も私をからかってるだけなんだなぁと思う。

もっとも、私は本当に何されたって先輩を本気では怒らないだろうから、先輩が私を怒らせたかもって心配しないのも当然かもしれないけれど。

< 59 / 177 >

この作品をシェア

pagetop