イジワルな旦那様とかりそめ新婚生活
刹那さんは腕時計にチラリと目をやると、メガネのブリッジを人差し指で押し上げながら私に告げた。

「もう時間がないから行くが、絶対に風呂で寝るな。それから、外出する時は首にショールでも巻くんだな。目立ちたくなければ」

メガネのレンズ越しに彼の目が悪戯っぽく光る。

私の首には彼に歯形がくっきり残っている。私はまだヒリヒリする首筋を手で押さえた。

「ショールでも巻けって自分で噛んどいて何言ってるんですか‼人を噛むなんて……私の事は珍獣なんて言ってたけど、獣は刹那さんの方じゃないですか!」

そんな変なアドバイスするくらいなら、噛むな!

私をいじめてそんなに楽しいのか!

ああ~、今日も絶対奈々子と久世さんに詰問されるよ。

「男なんてみんな獣だ。あの秋人もな。忘れるな」

意味深長な言葉を残して、刹那さんは迎えに来た右京さんと一緒にマンションを出た。

「久世さんは明らかに違うでしょう。野蛮なイメージないもん」

刹那さんがいなくなった部屋で一人呟く。
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