私の横に居る人

「たくさん話さなきゃいけない事がある。」

智樹先輩は口を開く。

「実は、俺が大学に入ってすぐに悠ちゃんに会っている。」

そういえば健先輩がそんな事を言っていた。

でもそんなに前に？

「大学に入学してすぐ、山本出版の前を通りかかった。その時まだ高校の制服姿の悠ちゃんが石野さんに何かを届けている姿を見た。」

そういえば、ずっと前にお弁当を届けたような記憶がある。

「石野さんに笑いかける悠ちゃんのその雰囲気に俺は目が離せなかった。悠ちゃんと石野さんが別れた後も、その場に立ち尽くしていた自分に気が付いた時は恥ずかしかったよ。2,3日君の笑顔ばかりが頭を離れなくて、また会えないかと山本出版に行ってみた。石野さんがそのまま山本出版に入っていたのは覚えていたからね。するとバイト募集の事を偶然聞いた。そのまま面接を受けたよ。自分が理系で、一番向いていない校正という仕事だったのにね。なにか君の手掛かりが欲しかったんだ。」

理系の先輩が出版社でバイトしているのは、そんな理由があったんだ。

「偶然にも俺は石野さんと顔見知りになった。石野さんは家庭的な人で、高校生の娘さんが居る事はすぐに分かったよ。だから夕飯を誘われた時、神様っているんだなって柄にもなく思ったよ。」