落ちる恋あれば拾う恋だってある



複数の企業に履歴書を送ったが半分以上送り返され、面接をした企業全てから不採用通知が届いた。
そろそろ貯金も底をつく。自分の見通しの甘さが嫌になる。

もう俺を採用してくれる企業なんてないんじゃないか……? 特技もやりたいこともない、こんなつまらない俺を誰も必要とはしないんだ。
全て悲観的にしか考えられない。無計画に仕事を辞めたことを後悔していた。

「はあぁ……」

ハローワークの廊下で盛大に溜め息をついた。
カサっと紙が擦れる音がして顔を上げると、俺以外誰もいないと思っていた廊下にもう一人いた。向かいのイスに座って俺を見ているのは北川夏帆だった。
目が合うと慌てて下を向いて書類を整理し始めた。

いつからいたのだろう。存在感なさ過ぎて気づかなかった。

先ほどの溜め息を聞かれたことが恥ずかしくなった。この子には余裕のなさを見られたくない。
そう思ったとき廊下に着信音が響いた。俺のではないシンプルな音は北川夏帆のだった。
慌ててカバンからスマートフォンを出すと、音が出たことを申し訳なく思ったのか俺に軽く頭を下げて電話に出た。

「もしもし……はい、そうです……はい……はい……」

北川夏帆は俺に遠慮してか小さい声で話していた。地味女の電話に興味はない。俺は先程印刷した求人票に目を通した。

「え? はい……はい! ありがとうございます!」

一転して明るくなった声音に俺は顔を上げ北川夏帆を見た。

「はい! ありがとうございました! 失礼致します」

通話を終えた北川夏帆はスマートフォンを握り締め、見たこともない笑顔を見せた。

ああ、この子仕事決まったんだ……。

自分の置かれた境遇を思うと一瞬妬む気持ちが湧いたが、就活から解放され安心した表情に俺もつられて笑ってしまった。

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